第3回 社会人特別講義 武田康孝先生(独立行政法人 国際交流基金)★後半★

そんな先生は、現在の外務省所管の独立行政法人である国際交流基金にて、日本の文化・芸術を海外で紹介する仕事を行っています。「国際文化交流」「文化外交」と言われる仕事の一端です。

日本文化の海外で紹介するときに先生が考えていることは、以下のようなことだと言います。

・その事業の最も大きな「お題目」は何か
(外交上の必要性、国際交流基金にとっての実施の必要性、など)
・現地(派遣先国)が希望していることは何か
(日本の文化の何/どういった要素を紹介したいと思っているのか)

その上で、「予算」「新規性」「有望性」「インパクト」などの観点から、国際交流基金として実施可能なことは何かを考え、実際の事業を作っていくのだそうです。

仕事をする上で考えるべきこと

例として、ご自身が在勤時に担当された二つの事業についてお話しくださいました。

一つは、2015年1月に行った沖縄の文化紹介イベントです。きっかけは文化庁の「東アジア文化交流使」に沖縄のシンガーソングライターの方が選ばれ、国際交流基金が韓国での受け入れをお手伝いすることになったことですが、先生は単なるお手伝いとしてではなく、公演の内容にも積極的にコミットされたとのことです。沖縄の演劇プロデューサーとともに伝統音楽・芸能を公演内容に組み込み、また休憩時間には沖縄の食べ物やお酒の試食・試飲のコーナーを設けたり、関連イベントとして沖縄を舞台にした映画上映会を実施したりと、一面的でない沖縄の文化紹介に努めたそうです。

ソウルでの公演の様子(YouTube)

もう一つは、「日韓若手文化人対話」事業です。2015年は日本と韓国との国交が正常化して50周年という節目の年でしたが、両国の外交関係は良くありませんでした。一方で、K-POPや韓国映画が好きな日本人、日本食や日本への旅行が好きな韓国人もいます。公の場ではどうしても建前が前面に出てしまう傾向のある日韓間の対談で、文化や芸術に関わる人々がお互いに本音で言葉を交わす機会を作り、記録を後世に残すことができないか。色々と考えを巡らせた結果企画したのが、この「対話事業」だったとのことです。

韓国で行った事業について熱く語ってくださいました

話が盛り上がりそうな小説家、建築家、映画監督などをマッチングし、原則公開の場で話したいことを話してもらうことにしました。また韓国の政府系機関にも主催に加わってもらい、日本と韓国の両国で同じペアで対話を行ったこと、韓国に造詣の深い出版社にも声をかけ、対話を書籍化して両言語で読んでもらうことができるようにしたこと、「文化」という同じフィールドで活躍する各自が普段考えていることを、自らの悩みを含め率直に話してもらうようお願いしたことなどが功を奏し、5回にわたる対話は大変好評だったそうです。この対話事業は、先生が韓国から帰国した今でも、年に1、2回のペースで行われています。

「日韓若手文化人対話」事業の内容をまとめた本
『今、何かを表そうとしている10人の日本と韓国の若手対談』(クオン刊)

先生は、ご自分はこれまで
ポジティブに変わってきた
と仰います。

「ポジティブに変わってきました」

「世の中には多様で異なる文化が隣り合っていることを知った中学~高校時代。仕事のやり方や難しさを学び、芸術・文化と社会との関係を考えるきっかけをくれたNHK時代。芸術や文化の営みは、大きな視点と細やかな視点をもって見ていくことが必要だという確信を得た大学院時代。現在も、異なる価値観に接することで自分が少しずつ変わってきていると思います。だから皆さんにも、自分が信じる見方とは別の見方があるということを理解できるようになってくれたらと願っています。自分の考えを主張して、そして相手にも主張されて、それによって自分が変化する、いわば『自分の輪郭線が変わる』体験を楽しむようにしてください。自分が変わっていくことは、何も悪いことでも変なことでもありません」と締めくくっておられました。

変わることを恐れないでください!

つい先日(11/13)、第4回社会人特別講義が行われました。こちらも近々ご報告します♪

卒業シーズンも間近です!音楽教育専攻では、卒業論文発表会や卒業演奏会など、まだまだイベントは盛り沢山です。ブログもどんどん更新していくので、ぜひぜひご一読ください!!

執筆者:事務助手 福本カナコ

コメント